近視について
近視とは、遠くのものがぼやけて見えにくく、近くのものは見やすい状態です。 近視の目は前後の長さ(眼軸長)が長くなって、目に入る光線が網膜より前方に結像しています。眼鏡(凹レンズ)で光線を網膜上に合わせることでものがはっきり見えるようになります。なお遠視の目は光線が網膜より後方に結像し、眼鏡(凸レンズ)で光線を網膜上に合わせます。
近視の程度は屈折値であるジオプトリー(D)を用いて表示し以下のように分類します。
① 弱度近視 -3.00D未満
② 中等度近視 -3.00D〜-6.00D未満
③ 強度近視 -6.00D〜
近視が発症する原因としては遺伝要因と環境要因が関連していると言われています。
環境要因としては近業の増加や屋外活動の減少が指摘されています。
近年子どもの近視の発症が若年化し、程度も強くなっていることが世界的に問題になっています。特にコロナ禍において、ステイホームにより外で遊ばなくなり、ゲームなどの近業が増えたことも近視進行に影響してくると考えられます。
近視の進行を防ぐのにまず大事なことは生活環境の改善です。近業作業をする際は姿勢を正し、目から対象物までの距離を30cm以上離して、20~30分に一度は遠くを見て目を休めること、1日2時間以上は屋外活動をすることが推奨されています。
なぜ近視進行抑制が必要か?
近年近視人口は世界的に急増しており、豪Brien Holden Vision Instituteの報告では2050年には世界人口の約半数が近視になることが推計されています。
(Holden BA, et al. Opthalmology. 2016 Feb 11)
<注釈>Myopia:近視 High myopia:強度近視
近視が進行し強度近視になると、眼軸が長くなり眼球が後方に引き延ばされ、目の中に強い負荷がかかります。それにより眼底の網膜や脈絡膜、視神経に様々な異常を引き起こす状態を病的近視といい、眼底出血、脈絡膜萎縮、網膜剥離や緑内障などを併発することがあります。
日本における視覚障害1級(失明)の原因疾患のなかで病的近視は第4位となっており、今後近視人口の増加によりさらに順位が変わることが懸念されます(平成17年度厚労省網膜脈絡視神経萎縮症調査研究班報告書)。
このため近視進行を抑制し、病的近視をひきおこす強度近視への移行を少しでも食い止めることがとても大事なのです。
近視進行抑制治療について
近視の進行を抑制するものとして、これまでさまざまな研究がおこなわれていますが、有効性や安全性にエビデンスが得られている治療法は限られています。
1) 低濃度アトロピン点眼について
アトロピンはムスカリン受容体を阻害し、副交感神経の活動を制御することで散瞳(瞳をひろげる)、調節麻痺(ピントが合わなくなる)をおこします。
アトロピン点眼には眼軸長が伸展するのを防ぎ、近視の進行を抑制する作用があることがわかっていますが、通常濃度の1%アトロピンでは強いまぶしさや手元の細かいものにピントが合わないといった副作用が強く、点眼を中止したあとのリバウンドが問題になっていて、日常的に使用するのは困難でした。
しかしシンガポールで2012年におこなわれた研究で、100倍に希釈した低濃度アトロピン(0.01%)の点眼により屈折値として平均60%近視進行が抑制され、中止後もリバウンドせず効果が持続したと報告されました。近年日本の他施設共同研究もおこなわれ、2年間点眼することにより18%近視進行の抑制がみられたとされています。点眼による効果は個人差があり、あまり反応しない子どももいますが、簡便性や有効性、安全性において優れており、世界中でもっとも広くおこなわれている治療です。
2) オルソケラトロジー
オルソケラトロジーレンズという特殊なハードコンタクトレンズを寝る前に挿入し、寝ている間に角膜の性状を平らに変えて、日中ある程度の時間を裸眼で過ごせるようにする治療です。
変えられる角膜の性状には限界があるため、中等度の近視(-4D以内)までが適応になります。
オルソケラトロジーは近視の矯正だけでなく、眼軸長が伸展するのを抑制するという多くの研究結果(通常の眼鏡やコンタクトレンズ比で平均30~60%の抑制効果)が示されており、近視進行抑制効果が期待されています。
大人の管理のもとで装用しますので、年齢の低いお子さまでも近視進行抑制治療に使用することが可能です。
欠点としては自由診療のため、初期費用がかかること、ハードコンタクトレンズ装用による角膜障害、角膜感染症などがあります。
小児に対するオルソケラトロジー治療は、専門医による厳格な定期管理や親御さまへの適切な治療教育のもと行う必要があります。
当院のオルソケラトロジーについて、詳しくはこちら
3) 多焦点ソフトコンタクトレンズ
多焦点ソフトコンタクトレンズはいわゆる遠近両用ソフトコンタクトレンズとして知られており、この中でも拡張焦点深度型多焦点コンタクトレンズは遠・中・近の度数がリング状に連続しており、網膜周辺部の前方フォーカスを行うことで眼軸長の進展を抑制し、近視の進行を抑制すると考えられています。
近年国際学会で30%~40%の近視進行抑制効果が報告されており、オルソケラトロジーに匹敵する近視進行抑制効果が示されはじめています。
オルソケラトロジーと比較して刺激が少なく装用しやすいことや、1日使い捨てレンズで衛生面でも優れており、-4Dを超える近視のかたにも使用できるという利点があります。しかし日中にレンズを挿入するため、自分で装脱着ができる年齢になるまでは使用が困難です。一般的には小学校中学年以降が適応とされています。
4) 特殊眼鏡
海外では近視進行を抑制する目的で開発された新しい眼鏡が発売されており、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズと同様に、眼軸の延長が通常の眼鏡やコンタクトレンズと比較して平均50~60%抑制されることが報告されはじめています。日本ではまだ治験が行われておらず、現時点では使用はできません。
これより前に開発された累進屈折力レンズ眼鏡は、通常の眼鏡やコンタクトレンズと比較して平均10〜20%近視進行が抑制されることがわかっており、このタイプのレンズは日本でも使用が可能です。
当院で行っている治療について
当院では上記の治療のうち、低濃度アトロピン点眼治療とオルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズ治療を取り入れています。
低濃度アトロピン点眼
自由診療となりますので、保険診療とは異なる日に検査と点眼処方を行います。初回は1ヶ月分の点眼薬を処方します。その後は基本3ヶ月ごとに通院していただきます。
初回の費用は検査料と点眼料で計4.000円
2回目以降は検査料と点眼料で計5,400円
となります。
オルソケラトロジー
国産のオルソケラトロジーレンズ(ブレスオーコレクト)を使用し、親御さまの管理のもと夜間装用していただきます。比較的小さいお子さま(小学校低学年)からの開始も可能です。近視は中等度以内(-4.00D以内)、乱視は軽度(-1.50Dまで)が適応となります。
自由診療となりますので、保険診療と異なる日に受診をしていただきます。
治療の流れや費用につきましてはこちらをご確認ください。
オルソケラトロジー治療は医療費控除の対象になります。詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
多焦点ソフトコンタクトレンズ
拡張焦点深度型の多焦点ソフトコンタクトレンズである、シード1day Pure EDOFを採用しています。コンタクトレンズは日中装用していただきますが、自己管理のできる年齢からの開始となりますので、当院では小学校高学年からとさせていただいております。コンタクトレンズは正しく装用しないと角膜障害などのトラブルが起こる可能性があります。このためはじめてレンズを装用する場合はご家族さまとご一緒に十分な装用訓練を行わせていただきます。この際にはお時間がかかりますので余裕を持ってご来院ください。
EDOFレンズの費用は1箱(片目、1ヶ月分)3,800円となります。
*上記点眼治療とコンタクトレンズの併用療法も行っています。併用することにより強い近視抑制効果が期待されています。